早くからSDPを導入して環境にやさしい印刷に取り組んできた株式会社トミナガ(冨永久三社長)は、3月にFSC森林認証制度のCoC認証を取得し、三菱の FSC森林認証紙による印刷を開始している。FSC森林認証とは、森林資源を将来にわたって有効活用できるよう、成長に見合った量の木材だけを伐採し、土壌、水質、野生動物等の生態系にも気をつけて管理された森林に与えられるもので、FSC森林認証を受けた森林で生産された木材を一定割合以上使った紙が FSC森林認証紙と呼ばれる。
木材輸送、チップ化、チップ輸送、紙パルプ生産、用紙販売、印刷の全ての工程でCoC認証を受ければ、FSC森林認証紙を使った印刷物にFSCマークを付けることができる。
トミナガがFSC森林認証制度への取り組みを開始したのは昨年11月。三菱製紙がFSC森林認証紙を発売したことがきっかけだ。「三菱製紙のFSC認証取得に感銘を受けたのが大きなきっかけで、当社でもそれに取り組んでいくことにしました」と、冨永久三社長は説明する。すぐにFSCとは何か、三菱製紙の本社で説明を受け、昨年12月末に認証機関2社から見積書を取って1月に認証機関を決定した。その後、認証に向け、マニュアル作成などの作業を実施。今年2 月12、13日に審査を受け、3月13日付でCoC認証を取得した。
このように、トミナガはいち早くFSC森林認証制度のCoC認証を取得し、地球環境の保全に貢献する企業を目指すことになったわけだが、環境への取り組みは急に始まったことではない。実は、トミナガでは以前から環境をテーマのひとつに掲げていたのだ。
「自然にやさしいということがキーワードとなっていましたので、1年半ぐらい前にリサイクルペーパーのマークを付けられるようにして、大豆油インキの認証も取得しました。 環境にやさしい体制に徐々に持っていったわけです。昨年11月にISO9001の認証をいただきましたが、まだISO14000には手が届きません。 ちょうどそのときにFSCの話が出てきました。認証された森林があって、そこから出てきたチップが最後の印刷までつながっています。つまり、印刷の番号を見れば、遡って大元までわかるトレーサビリティー(追跡調査)だということがわかりました。これは、ひとつのセールスツールとして使えるのではないかと取り組み始めたのです」と、田村稔生産管理部副部長はCoC認証が再生紙や大豆油インキの利用の延長線上にあることを強調する。
「古紙が環境にやさしいと皆さんは思っていますが、紙パルプを作るときのようにバイオマスを使えないので、化石燃料を多く使うという欠点を孕んでいます。古紙が悪いとは言いませんが、一番いいのは適切に管理された森林から伐採された木材を使った紙を利用することです。そういうことで、FSC森林認証紙を使うことにしました。FSC森林認証紙は、非営利団体の第三者が認証し、適切に管理された森林から伐採された木材を使っていることをきちんと立証できます。古紙は自己申告しかなく、立証ができないわけです。だから、FSCは消費者に安心を与えるものなのです。新しい動きとして、FSC森林認証紙を広めることが、環境保全への貢献につながると考えています」と、冨永社長は環境保全への貢献に意欲を見せる。
認証を受けるための作業は、ISO9001と文書管理や追跡の考え方が同じだったので、抵抗なく入っていけたということだ。「現実的に管理できるようにマニュアルを作りました」と田村副部長。
社内の区分については、他の紙と混ざらないように、断裁業者に断裁してもらうとき、紙の外側に緑色のマジックで線を入れ、一目瞭然でわかるように管理している。刷り上がった印刷物は単独に保管するが、一度刷ってしまえば、あとは刷った絵柄で区別がつくという考え方をとっている。
印刷後の残紙は、FSC認証紙として管理することも可能だが、同社では残紙の量が少ないため、通常の用紙へ回している。
印刷物へのFSCマークの付与は、申請が必要だが定期刊行物などの場合、承認を受けたロゴマークを繰り返し使用する時は、再申請をしなくてもよい。製作した印刷物のロゴ部分は、FAXで認証機関のSGSジャパンに送り、問題がないと審査されたものはFAXで返送され、社内で整理番号をつけ、管理している。また、紙の仕入先である紙問屋は、まだCoC認証を取得していないため、今のところ三菱製紙販売から仕入れしている。
現在、常備しているFSC認証紙は、コート系の「パールコートFSC」と、マット系の「ニューVマットFSC」の2種類。アート系のFSC認証紙も取り寄せることができるということだ。
FSC森林認証紙は、バージンパルプから作られているので、品質が高いことも特長のひとつ。「再生紙の欠点は、高級印刷物を作るときに、印刷の再現性が難しいのです。再生紙を要求されていながら、紙にシミがあるとクレームがつくという現実があるわけです。そういうところには、新しい紙を使っていただくことが可能になります」と、田村副部長はお客さんの要望に合わせて、再生紙とFSC認証紙を使い分けていきたい考えだ。
この一方で、「森林認証紙のおはなし」という絵本を作って、顧客への浸透を図るとともに、自社の営業マンに対してFSC森林認証紙の知識を教育している。当然、CTPや大豆油インキも一緒にPRして、環境にやさしい印刷会社を前面に押し出していくことになる。
「CTPと同じように、どこかが先端を切ってやらなければいけないと考えていますので、東京では当社が積極的に宣伝していきたいと思っています。環境の問題は一般企業も非常に敏感ですから、今年度はこれを売りにしていきます」と、冨永社長は環境問題を顧客との接点として、受注増加につなげていきたい考えだ。