インクジェットプリンタが広く使用されるようになった原因の1つに、高精細化による高画質であることが挙げられます。高画質を可能とした要因はメディアに寄るところが大きいですが、発色性に優れ、吐出が安定し、目詰まりしない水溶性インクの存在なしには考えられません。
インクの組成は、水、着色剤、浸透剤、乾燥防止剤、pH調整剤、防腐剤、防かび剤などから構成されています。
無味、無臭、無色の液体です。また、引火や発火の虞もありません。水は分子構造に起因する強い極性をもっています。すなわち、分子中に相対的に正電荷である領域と負電荷である領域を有しています。この様な化合物を極性化合物といい、電解質や同様の極性化合物をよく溶かします。水性染料も電解質です。
染料と顔料があります。現在、インクジェットプリンタヘッドのノズルの目詰まり問題に対するインクとしての信頼性が高いことから、水溶性染料インクが主流です。
水性染料は、滲みを生じやすく、画像の耐水性や耐光性に劣るという問題があります。染料は、直接染料、酸性染料、塩基性染料などに分類されます。インクジェットでは、安全性の問題から直接染料と酸性染料を用いています。色鮮かさは酸性染料が優れ、耐水性は直接染料が優れています。
顔料は、水に対する分散方法やノズルの目詰まりなどの問題から実用化に遅れていましたが、優れた耐光性、耐水性を生かしてワイドフォーマットインクジェットプリンタでは広く使われています。
インクジェットメディアに対するインクの定着は、基本的にメディア表面に対するインクの浸透である。メディアに対するインクの濡れ性と浸透性を向上する目的のために、浸透剤が用いられます。浸透剤には、メディア溶解型、表面張力低下型、蒸発併用型に分類されます。
メディア溶解型浸透剤は、苛性カリに代表されます。苛性カリはインクのpHを高めて、メディアの表面を溶かす性質があります。しかし、安全性やカラー化に問題があるために現在はあまり使用されていません。
表面張力低下型の浸透剤は、界面活性剤や有機溶剤に代表されます。これらはインクの表面張力を低下させる性質があります。水に対する溶解度が小さい界面活性剤や有機溶剤は優れた浸透性を示し、カラー化に適します。
蒸発併用型の浸透剤は、エタノールやイソプロパノールなどの低沸点の水溶性有機溶剤に代表されます。これらは、表面張力を低下させると同時に蒸発によって滲みを抑制する効果があります。
プリンタヘッドのノズルの目詰まりを防止します。乾燥防止剤は吸湿性化合物に代表されます。一般にジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、N-メチル-2-ピロリドンなどが使用されています。
着色剤の溶解安定性や浸透性に関与して、インクのpHを所定の範囲に合わせる必要があります。
水溶性インクは保存しておくと、微生物が増殖してきます。微生物が増殖してくるとpHの低下やインク成分の沈降などが発生し、インクの変色やノズルの目詰まりを引き起こします。
水性インクのための防腐防かび剤としては、安息香酸ナトリウム、ソルビタン酸カリウム、チアベンダゾール、ベンズイミダゾール、サイアベンダゾール、チアゾスルファミド、ピリジンチオールオキシドなど化合物が知られています。
その他インクの泡立ちを防止するための消泡剤、顔料インクでは顔料を分散するための分散剤、インク中の溶存酸素を除く脱酸素剤などがあります。